2012年
4月14日(土) 蝶
東京の友禅染工房に入ったのは1968年の春だった。最初は下絵を白生地に写すことから始まり、一週間も経たないうちに
彩色筆を持たされた。蝶の文様だった。先生から染め上がりの反物を渡され「この通りに」といわれただけで指導は何もない。
周りにいる先輩達を見習って染料を解き滲み止めの助剤を入れるのだが、初めて描いた蝶は助剤が足りなかったようで 染料が
アッという間にクリーム地色の上を走った。蝶は見本よりかなり大きくなってしまった。途方に暮れる私に気が付かれた先生は
「後で直すから、そのまま、そのまま」 と平然としておられた。どのように直されたのか分からないが業界では「色がついていれば
売れる。」といわれたほど生産に追われている時代だった。
そんな大失態を演じた私だったが 戦前の映画、ー藤十郎の恋ーを観た時、蝶の文様にインスパイアされた。モノク
自死を決意したお梶という内儀の着ていたきものが深く、やり場のない想念を浮かび上がらせていた。儚げなぼかし地に白と黒の
蝶が幾つも舞い、きものを通して現れた心象というのだろうか、文様は単に並べ繋げるものではなく、互いに響き合わせ、
異次元の世界を生じさせこともできると感じた。映画の美術は小村雪岱。それから蝶は私にとって大切なモティーフとなった。
本友禅 袋帯
本友禅 小振袖
本友禅の帯
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